単独の熊さんたち(singular bears)

熊を放つ〈上〉 (中公文庫)

熊を放つ〈上〉 (中公文庫)

『熊を放つ』読了。
ジョン・アーヴィングのデビュー作で、1968年発表。
wikiによれば、もともとはアーヴィングの修論だったそうな。こんな長い文章をいくつも抱えたら、指導教官もさぞかし大変だったろう。ご愁傷様です。

小説の内容はタイトル通りで、主人公グラフが熊をはじめとして動物園のいろんな動物たちを檻から解き放っちゃいますよ、というお話(原題はSetting Free the Bears)。
三部構成になっていて、第一部は主人公グラフと親友ジギーとの出会いからバイクでの二人旅を経てある事故が起きるまでを、第二部ではジギーが記した動物園偵察ノートと第二次大戦前夜のヨーロッパ情勢とを交互に、そして第三部ではグラフが動物園破りを決断・実行し、その後訪ねるべき人物のところへ向かうまでを描いている。
第一部の奔放さ(あるいはグダグダ感)にうまく乗れなくて途中何度も挫折しそうになるが、なんとか凌いで第二部までたどり着くと、俄然面白くなる。若者たちの無軌道な彷徨に、徐々に歴史意識の背骨が一本通っていく。第二部で描かれるある種の使命感(というとおおげさかもしれないが、少なくとも主体性らしきもの)が第三部に受け継がれ、グラフは動物園破りに至る。


この小説を読むポイントの一つは、グラフがなぜ動物たちを解放しなくてはならないのか、その必然性をいかにくみ取るかだと思う。これをただのラリった若者の行き当たりばったりの愉快犯だと読むのは明らかに誤読だ。
小説中、グラフとジギーが特に嫌悪するものは「計画」と「統計」である。
存在を記号化しようとする近代的管理システムに対し、グラフたちが擁護しようとしているもの、それは事物の単独性"singularity"なのだろうと考える。

単独性といえば、やはり次はこれをきちんと読まねばなるまい。

探究2 (講談社学術文庫)

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