As if I expected to see...

ブログタイトル"Like a Kite on a Broken String" (糸の切れた凧のように)は、Truman Capoteの短編 "A Christmas Memory" (1959)から取っている。

タイトルの通りクリスマスの思い出を描いた小説だからこの間のクリスマスのときにでも書くべきだったのにそうせず、今更になって書くのは昨日雪が降ったからです、というのはこじつけです。
なんとなく書きたくなったのです。


カポーティの作品の内いわゆる「アラバマもの」といわれるシリーズに属する作品で、Buddyと呼ばれる男の子(本名は明かされない)が、昔南部で一緒に暮らしていたいとこのおばあちゃんとの思い出を一人称で語る。
おばあちゃんの作るフルーツケーキのくだりや、クリスマスツリーのための最高の木を切り出しに森へ入っていくシーン、飼い犬Queenieと三人で凧上げをする場面、どれをとってもステキ。


でも、やっぱりこの短編が好きなのは、エンディングが見事すぎるから。
最後の2ページちょっとの締めは、本当なら全部引用したいのだけど、長すぎてもなんなので、最後の一段落だけ。
7歳のクリスマスをおばあちゃんと一緒に過ごした後、Buddyは陸軍士官学校に入れられることになり、おばあちゃんやQueenieとはなればなれになる。
数年間はおばあちゃんもQueenieも元気で時々Buddyと文通をしているが、やがてQueenieはある事故によって亡くなり、おばあちゃんも徐々に弱っていき、ついにある朝息をひきとる。
そしてQueenieと彼女の死を受けて、最終段落。

And when that happens, I know it. A message saying so merely confirms a piece of news some secret vein had already received, severing from me an irreplaceable part of myself, letting it loose like a kite on a broken string. That is why, walking across a school campus on this particular December morning, I keep searching the sky. As if I expected to see, rather like hearts, a lost pair of kites hurrying toward heaven (177-8).
(大意)
そしてそれが起こったとき、ぼくにはそれがわかる。そのことを告げる便りは、ある秘密の感覚がすでに受け取っていた情報の一部を確かめるにすぎない。そしてぼくからかけがえのない一部分を切り取り、糸の切れた凧のように空へと放ってしまう。だからこそ、この特別な12月の朝に校庭を歩いて回り、ぼくは空に何かを探し求めている。ハート形に似た、一組の迷子の凧が急ぎ足で天国に向かうのが見える、まるでそんなことを期待しているみたいに。


Buddyから分かたれた「かけがえのない一部分」は、空に解き放たれる。
おばあちゃんとQueenieも、天国へと向かっていく。
両者を包含するこの「空」と、そこへ向かって昇華が起きていくイメージって何なのかを考えなくてはいけないのだろうと思う。
・・・が、冷戦リベラリズムの話とかを考え出すとまとまらなくなるので、すごく印象批評的なことを書いてお茶をにごす。


ラストシーンは確かに「イノセンスの喪失」でもあるのだが、他方でネガティブな側面だけでないある種の希望(成長)が感じ取れなくもない。
最後の一文では、仮定法の使用からもわかるように(As if I expected to see)、Buddyは、迷子の凧なんて見えないことがわかっている。
でも空を見上げずにはいられない。
天国に向かう二人を見ることは、二人の幸福を見届けることであると同時に、自分にとっての救いでもあるから。
二つの迷い凧を見ることができれば、かけがえのない一部を失った自分も、欠けてなお生きていける。
そういう読み方をしたいと思うのだ。
ブログのタイトルをこのくだりから持ってきたのも、単にカポーティの美文が好きっていうことの他に、"a kite on a broken string"の矛盾しつつも共存する両価性――喪失感と救済感――を込めたかったという意図がある。



全然関係ないけど、9月のブログに書いた屋久島旅行に一緒に行ったメンバー、「リーダー」と「UMA」がやっているバンド「Chaos. Inc」が、ライブハウスマガジン『JUICE』の取材を受けたよ!
学部生時代に入っていた軽音楽部の同期4人がやっているバンドなのだけど、笑顔のたいへん素敵な4人組なのでよかったら応援よろしくお願いします〜!
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