秋と私

(1)論文とメンタリティー
月末〆切の投稿論文を書くにあたって、ふと初心に帰りたいような気持ちになり、学部生時代にゼミで読んだこの本をパラパラと手繰る。

創造的論文の書き方

創造的論文の書き方

学部生時代に教えていただいた先生のさらに先生のご著書。
学部生〜大学院修士課程の学生を中心的な読者として想定し、論文の書き方に関する基本的なものの考え方を説明している。
経営学がご専門の先生による本なので、内容としては、基本的には社会科学(Social Science)の分野により密接な関わりがあり、自分がいまいる人文学(Humanity)の分野、たとえば僕のやっている文学研究と隅々まで整合的というわけではないかもしれない。
しかし、「論文を書くとはどういうことか」「論文の意義とはどこにあるのか」「科学とは何か」といったような、シンプルだがしかし根源的な問いにきちんと向き合っている本書は、分野を超えて、様々な読者にとって論文を書く上で示唆に富んでいるように思う。
また、英米文芸評論家の福田恆存から論理展開上の刺激を受けたと語っているくらいなので、人文学の枠組みに対しても決して否定的なわけではない。


ざっと読み返してみて、個人的に覚えておこうと思ったのは、本書が提示する論文執筆プロセス起承転結の「転」を描いた第三章のある部分。転とは、「知的作業の方向がこれまでは自分の頭に向けられていたのが、一転して他人つまり論文の読み手に向かっての方向に変わる」(186)プロセスだという。
論文は読者を想定して書くものだから、作業経緯や、発想のきっかけといった「舞台裏」を見せびらかすべきではなく、仮説と証拠の質という「表舞台」で勝負しなければいけないのだ、と話が進む。
そしてここで、つい舞台裏を見せたくなってしまうメンタリティーについて言及がされる。

文章に表現するという作業がついつい自己中心的になるのは、無理がない部分もある。
表現するということは、ある意味でつらいことである。自分の中身を他人と自分自身に見せる作業になってしまう。そして、自分の真の理解の程度を自分自身が知る作業になってしまう。
そのためであろうが、表現すること、書くことは自己嫌悪との戦いになる。自分はこの程度か、と思い知らされるからである。だから、あまり徹底的にあるいは明確に表現をしたくなくなる。その代わりに、自己弁護といっては表現がきついかも知れないが、ついつい作業経緯を書いたり、発想のきっかけを書いたりしてしまう。
そればかりでなく、多くの人が文章に表現するプロセスで難渋して、時間がかかる。無理もないとは思う。しかし、思い切らないと文章、とくに長い文章は書けない。思い切るとは、結局のところあきらめることである。この程度でまあしようがないか、と自分にあきらめさせることである。
あきらめるのは敗北主義だと言って、頑張る人もいないではない。しかし、それは一種の自己陶酔に似ている。頑張っている自分の姿が「自分にとって」美しいのである。それもまた自己中心的で、あまり建設的とは言えそうにない。あきらめるかどうかを考えるのではなく、むしろ「より健全なあきらめ方」とはどのようなものかを考えた方がいい。その方が、自己中心的でなくなる。
(……)しかししばしば、あきらめの強制は外からやってくる。原稿の締め切り、論文の提出期限という〆切である。そうした外圧がなければ、圧倒的に多くの人は「文章に表現する」という作業を終えることができないだろう。(……)
自己嫌悪を振り切って、他人に理解してもらうために書く。それが「文章に表現する」という作業の一つの基本である。 (193―4)

長めの引用になってしまったけど、大切なことを言っていると個人的には思う。
自分と向き合うのはきついことだけど、それで自己嫌悪になるのは確かに健全ではない。全然ない。
結局いい論文を書こうと思ったら、人間的に成熟しなきゃってことなんだよな、ちょろっとそんな気がした。



(2)Fake Plastic Trees
すっかり秋ですので、これからしばらく秋っぽくバラードとかエモい曲をあげていこうと思います。
初回はこれ。
"Fake Plastic Trees" by Radiohead

わが青春時代のアイドルRadioheadの中でも一番好きな曲。
画質はイマイチかもだけど、出音としては、この動画がYou Tube上にあるこの曲のライブ映像では一番イケてるんじゃないかと思います。
リードギタージョニー・グリーンウッドがむっちゃいい仕事してる!


タイトル中の"plastic"には、そのまま「プラスチック」の意味もあるけど、「ニセモノ、まがいもの」という意味もあります。
一回ガチで歌詞解釈を書きかけたんだけど、さすがにいろんな意味で痛すぎると思うのでやめました 笑。


だけど、もう10年くらいこの曲を聞いていて、それでもいまだにこの曲が大好きです。
歌詞は暗めなんだけど、とてもスイートなメロディ、曲だと思います。
それではライブ映像2:10の"it wears him out"(それが彼をすり減らす/疲れさせる)からみんなで大合唱しましょう!
せーの、ぅううえええーーーああーーああーーああーー!




おまけ1:
オリジナルPV。
バンドメンバーがカートに乗って運ばれていくのは、自分たちもまた消費される商品にすぎないということの揶揄だそうです。


おまけ2:
Christopher O'rileyがピアノでカバーしたFake Plastic Trees。
せっかく電子ピアノを買ったのにすっかり練習しなくなっちゃったけど、この曲はいつか弾けるようになりたい!