They Say, I Say.

こんにちは、「アイスに例えるならパナップ」の呼び声も高い僕です。


1. They say, I say
アメリカの名門大で博論を書き上げて帰ってきた院の大先輩が、今期母校で講義をやってくださるというので履修することにした。
英語のアカデミック・ライティングや、プレゼン、ディスカッションの勘所を学ぼうという趣旨の授業で、アウトプットを訓練する場はなかなか得難いから、とてもありがたいと思う。
ひとまず前半のテクストとしては、これを使うことが決まった。

They Say/I Say: The Moves That Matter in Academic Writing

They Say/I Say: The Moves That Matter in Academic Writing

わりと新しい本で、主にアメリカの学部新入生たちが、文章の書き方のイロハを学ぶのに使う教科書的なものらしい。
タイトル"They Say, I Say"が端的に示すように、本書が提案するのは、会話"conversation"としての文章の書き方を身につけるということ。
ただ「オレがオレが」と自己主張するのではなくて、自分の考え("I say")を、他の人ないし他の集団("they say")への応答"response"として提示することの大切さを、本書は繰り返し説明する。
そもそも僕たちが何かを訴えたいとか論じたいと思うのは、多くの場合、そうするよう駆り立てる他の人の主張なり状況なりがあったからだ。
そしてそれに対して自分は同意するのか、反対するのか、どちらでもないのかを示すことで、しばしば起こる「言っていることの内容はわかるけど、なぜそれを言ってるのかがわからん」という状況を回避することができる点でも、会話として文章を書くことは重要だそうな。


まあ具体的には、これ、テンプレ集です。トピックごとに、こういうときはどういう言い回しを使えるのかをとにかく体で覚えてください的な本。
テンプレートの叩き込みについては著者の生徒たちからもたいてい反発が多くて、「そんなことばっかりしてたらライティング・マシーンになっちゃうザンス」とか「自分ジャズ・ミュージシャンなんで、もうちょっとインプロっぽい独創的なことしたいッス」とか言う不満が毎年出るのだそうだ。
しかし、独創性なり創造性というものを勘違いしちゃイカン、と筆者は釘をさす。
超前衛的なジャズ・ミュージシャンだって、基本のフォームはきちんとマスターしてからやっているのであって、それがなかったら子供の戯れと変わんないのだよ、と。

Ultimately, then, creativity and originality lie not in the avoidance of established forms but in the imaginative use of them (11).
[拙訳]
突き詰めていくと、創造性や独創性というのは、確立された型を避けることにあるのではなくて、それらの型の想像力豊かな使い方のうちにあるのです。

まあどっかで聞いたようなコメントだといえばそうなんだけど。
でも、基本の型をないがしろにしちゃいけないってのは、論文を書くときでも、パンやケーキを作るときでも、絵を描く時でもきっとあんまり変わらないと思う。
だからといって、じゃあキミは実践できてんのか、って突っ込まれたら相当タジタジしますけど 笑


また、会話として文章を書くことの大切さは、イントロダクションの末尾に置かれている以下のくだりに集約されるだろう。
多面的で複雑に込み入った会話ができる能力は、2001年9月11日以降特に大事になっており、私たちの未来は、考え方が大きく異なった人の立場からものを考えることができるかどうかにかかっている、と筆者は主張する。

The central piece of advice in this book―that we listen carefully to others, including those who disagree with us, and then engage with them thoughtfully and respectfully―can help us see beyond our own pet beliefs, which may not be shared by everyone. The mere act of crafting a sentence that begins "Of course, someone might object that________" may not seem like a way to change the world; but it does have the potential to jog us out of our comfort zones, to get us thinking critically about our own beliefs, and perhaps even to change our minds (14).
[拙訳]
本書のアドバイスの中心――つまり、自分たちと意見の合わない人たちをも含めて、他の人たちの話をよく聞きましょう、そして彼らと思慮深く、敬意をもって交わりましょうというアドバイスーーは、みんなと共有できないかもしれないような、自分だけの特別な価値観を乗り越えてものを見るのを助けてくれます。「もちろん、_______という反対意見をもつ人もいるかもしれない」で始まる文章を組み立てる、などという瑣末な行為は、世界を変えるための手段には見えないかもしれません。しかし、そういう風に文章を書くことで、私たちは、自分のいる居心地のいい場から揺さぶり出されたり、自分の信念についてじっくり考えたり、そしてひょっとしたら、自分の考えかたを変えたりすることになる可能性だって、確かにあるのです。

確かに、文章の書き方を気をつけたって世界は変わらないかもしれないけど、でも人の話をきちんと聞こうという姿勢がそれを通じて広がっていく先には、幾分かでもいいことがある気がする。



なんていうか、自分のつまんなさに嫌気がさすときとかに、広い文脈を思い描くことでちょっと救われた気になることがある。
でもそれは単なる自己欺瞞とかまやかしでしかなくて、自分は公共性みたいな概念を都合良く搾取しているだけのような気もする。

疲れてるな、青年。




2.秋ミュージック第二回
前回に引き続き、秋っぽかったりエモかったりする曲を3つばかし。
今回はやや音響よりで。

a. "Arne" by Haruka Nakamura

Akira KosemuraとSerphとで、ジャニスでは日本の三大若手音響勢みたいなプッシュをしていました、haruka nakamuraの1stアルバムから。
1:36からのウィスパーヴォイスは、You Tubeのコメント欄を参照したところ、"Sleep it out/ Downwards, down/ With the whole town/ Downwards, down/ Sleep it out"って言っているらしいです。

b. "Iambic 9 Poetry"

イギリスのテクノミュージシャン、トマス・ジェンキンソンさんのソロプロジェクト、Squarepusherです。
恥ずかしながら、語れるほど多くは知りません。
「自分ミニマルとか眠くてダメズラ」というせっかちなあなたは、4:30のカウントからだけでも聞いてください。
自分の代わりにこれだけドラムをぶったたいてくれているんだと合掌。

c. "ギンヤンマ" by キセル

唯一の歌モノ。
ジャケットも中身も素敵なキセルの3rdアルバムから。
実は秋っていうより冬っぽい曲だと思うんだけど、タイトルがギンヤンマですからね。
カラフルな電子音がエモくて好きです。


ブログを読んでくださっている方、お気に召した曲があったら会ったときにでも教えてもらえるとうれしいです!